やさしくキスをして

ロシーンはグラスゴーにあるカソリックの高校で音楽を教えている。ある日の放課後、パキスタン移民二世の女子生徒タハラが白人の男子生徒たちにからかわれ、騒々しく音楽室に駆け込んできた。ロシーンは男子生徒を追い返し、怒りに震えて泣いているタハラを優しくなだめる。タハラの傍らには妹を迎えに来た兄のカシムがいた。これがロシーンと彼との出会いだった。数日後、仕事を終えたロシーンをカシムが待っていた。先日の騒動で壊したギターを弁償しに来たのだと言う。そんなカシムに好感を抱いたロシーンは、グランドピアノの運搬を頼んだ。ロシーンには別居中の夫の元から、ピアノを移動したいと思っていたのだ。その晩誘われ、グラスゴー最先端のクラブで彼のDJを聞いた。互いに惹かれるものを感じた二人、やがて愛し合うようになる。しかし、カシムには両親が決めた婚約者がいるのだった。それは、9週間後にパキスタンからやって来る従姉妹のジャスミン。彼の父親は息子の結婚を喜び、商売の合間を見ては息子夫婦のための新居増築に大忙しだし、姉のルクサナの縁談も重なって一家はおめでたいムードに包まれている。移民としてこの国にやって来て以来、白人から差別を受けて続けてきて、同族のコミュニティーを重んじている古風で厳格な両親が、白人女性と付き合うことは許さないのだ。カシムは家族にもロシーンにも本当のことを言い出せずにいた。夏休みになった。校長から正教員の誘いを受けて、ロシーンは喜び、二人はスペイン旅行に出かけるのだった。そこで、初めて互いについてゆっくりと話し合う。ロシーンは若くして一度結婚したのは、家族のいない孤独から逃れるためだったと正直に告白する。そしてカシムも悩んだ末、ついに婚約者ジャスミンのことを打ち明けた。この出来事であらためて互いへの深い愛に気付いた彼は家族にロシーンのことを話し、ジャスミンとの結婚を断ろうと決意する。しかし帰国後、出来上がっていく新居や喜ぶ両親を前にして、カシムの気持ちは揺れ動くのだった。