伴淳・森繁の糞尿譚

昭和十一年、北九州の或る中都市に小森彦太郎というお人好しで馬鹿正直な男がいた。彼は先祖代々の田畠を売り、妻子と別居してまでも糞尿汲取業に身を打込んでいる。ボロトラック一台あるきりの「衛生舎」がそれで、毎月僅かな汲取料を貰うのに四苦八苦していた。市の有力者の赤瀬の口添えで、彼の事業は市の指定になっているが市からの補助は雀の涙ほどもない。そこで彼は同業者の結束を図り、組合を作って汲取料の値上げをしようと呼びかけるが、赤瀬と対立している同じ有力者友田の手で邪魔されてしまった。彦太郎が赤瀬に相談すると、赤瀬は自分の娘婿で経理にくわしい阿部丑之助を紹介した。阿部はこれまでなかった帳簿を作り、汲取嘆願書を市役所に提出した。この嘆願書は忽ち大反響を捲起し、市会でもこれを取上げるに及んでついに汲取料の増額が決定した。

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