文化庁委託事業「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2023」合評上映会・舞台挨拶報告レポート到着!

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3月11日(月)

日本における商業映画監督の育成への取り組みとして、文化庁が2006年度より主催する、文化庁委託事業「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2023」において、3月7日(木)丸の内TOEIにて今年度の製作実地研修で完成した4本の短編映画の「合評上映会」が開催された。舞台あいさつに登壇した4人の若手監督は、初の作品お披露目に晴れやかな姿を見せた。


左より、西ヶ谷寿一スーパーバイザー、城 真也、野田麗未、山本十雄馬、西口 洸の4人の監督

この日上映されたのは、『さようなら、ごくろうさん』『アボカドの固さ』がぴあフィルムフェスティバルに入選した城 真也監督作『明るいニュース』。看護師から映像業界へ転向した経歴を持ち『紡ぐ』が中之島映画祭に入賞した野田麗未監督作『光はどこにある』。建築系出版社を退職後に映画美学校で学び、修了制作が西東京市民映画祭自主制作映画コンペティションにて優秀作品賞を受賞した山本十雄馬監督作 『勝手口の少女』。卒業制作がうえだ城下町映画祭審査員特別賞、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭 2018 オフシアター・コンペティショングランプリ、沖縄国際映画祭 U-25 審査員特別賞を受賞した西口 洸監督作『恋は真っ赤に燃えて』の4本。フレッシュな感性と第一級の確かな技術が作り上げた個性豊かな作品が勢ぞろいとなった。

合評上映会は、文化庁芸術文化担当の圓入由美参事官のあいさつで開始。冒頭で能登半島地震の被害者の皆さまへのお見舞いと、文化庁が被災地復興へ全力で取り組むことへの決意を述べると、「これまで本プロジェクトを卒業された監督のうち、4割の方が商業デビューを果たした、というお話もありましたが、国内外でご活躍されているという報告を受けております。本日参加された4名の監督の皆さまにおきましても、その才能をさらに発揮して大きく飛躍され、映画界を盛り上げていただきたいと期待しております。また本日ご参集の皆さまにおきましても、4名の監督の皆さまが広く活躍できるよう、引き続きご声援を賜りますよう、お願い申しあげます」と会場に呼びかけた。


その後、『明るいニュース』の上映・舞台あいさつを実施。本作を描こうと思った理由について城 真也監督は「僕は93年生まれで。自分の世代的には登り坂を知らずに下り坂。閉塞感のある時代に生きてきました。昨今はその果てに凶行に走るような人もいると思うのですが、そういう人を、人殺しの星の下に生まれたサイコパスとして恐ろしい映画をつくるとかそういうことではなく、自分たちの近くにいるような、ある種共感できるような主人公を描いてみようと思った」と説明。本作の出演者はそれぞれに心の闇を抱えている人物である、という指摘に「今おっしゃっていただいた通り、全員が闇というか、(主人公の)元に通じるところを持っているように思っていたんですが。これは役のつくり方かどうかは分からないですが、自分ひとりでつくったものをやってもらうよりも、向こうから出てきたものと合わせてやってもらった。今回は皆さんとリハーサルをする時間があったので、皆さんとキャラクターをつくっていけた」と述懐。主人公を演じた篠原は「監督からはあまり元はこうだから、というように言われたことはなかったかも。むしろ元ってどんな人なんですかね? と聞かれて。どうなんですかね、なんて言いながら、ファミレスでふたりで2時間くらい話し続けていたんですが、あれはいい瞬間でしたね。僕の中での宝物のような時間です」と笑顔で振り返った。


続く2本目は『光はどこにある』。舞台あいさつの冒頭で野田監督は、「過去に看護師を経験したときに思い残したことだったり、心に残っているものなど、過去の自分をたくさん詰め込んだ作品です」とあいさつ。それぞれのキャラクターについても「(円井演じる主人公の)田辺灯里はほぼ自分かなと。(東演じる新人看護師の)朝倉は、自分が1年目の時の要素をかなり入れています。このふたりはほとんどわたしの要素。そして(鷲尾演じる、膵臓ガンステージ4の患者)佳子さんと(霧島演じる、佳子の娘の)果穂さんという親子も、今まで関わらせていただいた患者さんの中で心に残っている方をイメージしました。基本的に自分の経験や思いが入っています」と解説。しかし野田監督の思いはひときわ強かったようで、円井が「監督ってめっちゃ涙もろいんですよ。わたしが演技をするたびに泣いているんですよ」と笑いながら証言すると、霧島も「わたしの時もカットがかかるたびに監督が涙していて。こっちとしても、うれしいやら笑っちゃいけないやらで。わたしもそれにつられて泣けてきちゃって。なんて温かい現場なんだろうと思いました」と楽しそうに振り返った。


3本目は『勝手口の少女』。「今日はガチガチに緊張しているんですが」と語る山本監督は、「杉崎(隆行)プロデューサーからはお客さまに観ていただくエンタメを目指さなければいけないと言われたんですが、お話としては個人的な問題が反映されています。自分ひとりの力ではどうにもならない、長い時間の流れの中に自分がいて。見えない檻の中にいる感覚があったんです。ある意味、過去に決着をつけるという思いがありました」と説明。そんな山本監督は今回の撮影を振り返り、「今回は反省点ばっかりで……」とすっかり反省モードだが、黒沢は「わたしは山本監督とお会いして以来、ずっと実践していることがあるんですよ」と切り出した。そしてその実践していることとは「もちろん自分に与えられたセリフは全部言わないとダメなんですが、時々どんなに練習してもこのフレーズだけは出てこないな、という瞬間があるんです。その時に山本監督におっしゃっていただいたのが、『もしつっかかってしまうセリフがあったら、それが一番大事なセリフなんです。それが(黒沢が演じる)博子という役になるための一番大事なセリフなんですよ』とニコニコしながら言ってくださったんです。こういったやり取りって、各現場でいっぱいあるんですが、でも山本監督のように返してくださった方は今まで誰ひとりいなかった。ようやく山本監督とご一緒して、これだ! 42年やってきてわたしが知りたかったことはこれだ! と。今ではどの現場に行っても、セリフが出てこない時は、山本監督の顔が浮かんできて、乗り越えられるという経験をしているので、わたしを変えさせてくださって。感謝しかありません」と力強く語るも、山本監督は「実は今の話はまったく覚えていなくて……」と返してみせて、会場はドッと沸いた。


そして4本目は『恋は真っ赤に燃えて』。ステージに立った西口監督は小さな声でポツリ、ポツリと「映画にかかわってくださったすべての方に感謝の思いを込めて。映画に込めた思いは……映画で表現した通りです」とあいさつ。さらに3人の高校生を演じた出演者たちも、緊張しているのかあいさつも小さな声でポツリ、ポツリ。どこかテンションの低い登壇者たちの姿に、板尾も笑いをこらえながら、「みんな元気ないんですね。緊張しているんですかね? 具合が悪いのかと思った」と呼びかけ。本作が思いついた理由について質問された西口監督は「思いついたのは……こんな世の中だから……という感じですかね」とポツリ。会場からは思わずクスクス笑いが漏れたが、そんな中、板尾が「監督、逮捕されたわけじゃないんだから。もうちょっと……」とツッコんでみせて会場からは笑い声が。そんな板尾のキャスティングについて尋ねられても「そうすね……板尾さん好きなんでうれしかったです」と相変わらず低いテンションで返答。だが板尾から「別にうれしそうとちがうけどな」とツッコまれ、会場は大笑い。その後も、劇中に登場するタコについて「あの時はタコにこう動いてほしいと説明しました。返事はなかったけど、本番では指示通りに動いてくれたんです。言語を介さずとも思いは通じるんだなと感動しました」と語るなど、終始人を喰ったような返答を繰り返す西口監督。板尾も「元気ないのはしょうがないけど、うそまでつき出しましたからね。すいません」とあきれた様子で観客に謝り、会場を沸かせた。最後に「ロバート・ゼメキスの『バック・トゥ・ザ・フューチャー』みたいな。観た人全員が面白いというような究極のエンタメを。これは僕なりの『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を撮ったつもりではありますが。これからもそういった映画を撮りたいと思います」と決意を語るなど、映画同様、終始独特な雰囲気をかもし出した西口監督だった。

今年も個性豊かなクリエーターたちの上映が終了。スーパーバイザーの西ヶ谷寿一は「ndjcというのはちょっと特殊だと思っています。通常、映画監督が映画を作る際には、どこかからお金が出て、商業的なヒットを求められるんですが、今回はあくまでも選ばれたこの4名が自分でつくりたいものがどういうふうに出来上がるのか、それを体験する作業だと思っています。今後はなかなかこういう貴重な体験を経験する機会もないと思います。4作品とも面白ければ良いですが、決して傑作である必要はないですし、ヒットさせる必要もありません。だからこそ彼らに声をかけてあげてください。これが一番大事なことなので、ぜひともよろしくお願いします」とメッセージを送った。

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