3/3(金)よりシネマート新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開される映画『バニシング・ポイント』。今回4Kデジタルリマスター版で蘇るそんな本作に寄せて、ミュージシャン、落語家、文化研究者、映画監督、俳優…各界の著名人14名の方々より檄文が到着した。
60年代末から70年代半ばにかけ、アメリカ映画界を根底から揺るがした<アメリカン・ニューシネマ>を代表する一作『バニシング・ポイント』。コロラド州デンバーからサンフランシスコまでの2,000キロを不眠不休、15時間で走り切るという、スピードにすべてを賭けた男、コワルスキーの姿を、体制も反体制も超越した、乾ききった精神性で鮮烈に描く。

『バニシング・ポイント』コメント一覧
真島昌利(ザ・クロマニヨンズ)
やり場のない怒りと
八方ふさがりの諧謔が
暴発し、乱反射しながら
この狂った世界を突っ走っていく!
やってらんねえんだよ、クソッタレ!!
瀧川鯉八(落語家)
何から逃げて何を追い求める!心優しき人々に出会い交わりそんなすべてにサヨウナラ!乾いた大地は潤わない!乾いた奴らにゃ涙も出ない!ひとりの男が巻き起こす静かで熱狂のカーチェイス!圧倒的映像とイカした音楽に抱かれて俺たちは死んだ。そしていま、50年の眠りから蘇る!さあ劇場へ走れ!かっとばせ!遅れをとるな!先いくぜ!窮屈な時代にウンザリしてる全人類よ!終わりのはじまりが幕を開ける!さあ、スーパーソウルを響かせろ!!
花方寿行(静岡大学教授 ラテンアメリカ文学・比較文化研究)
アメリカン・ニューシネマ孤高の傑作『バニシング・ポイント』。その脚本を書いたのが、バティスタ独裁政権に反抗してキューバ革命に加わり、カストロやゲバラと対立して亡命、何度も発禁・公開禁止と闘いながらスペイン語圏最高の文学賞を獲得するに至った作家G・カブレラ=インファンテだと知って見直す時、現代のユリシーズ=コワルスキーの反骨の走りは新たな輝きを放つだろう。

ピーター・バラカン(ブロードキャスター)
ヒッピー時代が挫折感の中で砕けてしまった1970年代初頭にこの映画は感覚的に多くの若い人の心に響いたものでした。ぼくもその一人で、理屈で語るのは難しいですが、今見てもあの時期の空気が甦ってきます。史上最高のカー・チェイスを選ぶとしたら候補になるし、砂漠の中で演奏するディレイニー&ボニーのシュールな姿も貴重です。
空族 相澤虎之助(脚本家・監督)
ダッヂ・チャレンジャー、HONDA CL350、トライアンフのチョッパー、そしてスーパーソウル!大好きな映画で最高のモーター映画なのだが、いまほど心に響いたことは無かった。『この地球最後の美しい自由な魂』始まりが終わりのバニシング・ポイントをつっ走るコワルスキーは神話の中を生きる殉教者だった。
鳥居真道(トリプルファイヤー)
後追い世代の私が『バニシング・ポイント』なるカルト映画を知るきっかけとなったのは、プライマル・スクリームがタイトルを拝借して独自にサントラのようなアルバムを作ったこと、タランティーノが『デス・プルーフ』に白いダッジ・チャレンジャーを登場させたこ
とでした。デンバーからカリフォルニアまで猛スピードで車を届けるというファスト&シンプルなストーリーゆえに、汲めども尽きぬ魅力を放つこの不思議な映画をこの度、劇場で観られることに大きな喜びを感じます。

荘子it (ミュージシャン/Dos Monos)
白い車と白い粉、スピードでもって地上の束縛からの自由を求めたチャレンジャーの、天空への跳躍台ならざる“消失点”へと到達する大いなる助走。破滅的祝祭の音頭を取るかくも罪深き音楽。これを見届けるのみならず、スーパー・ソウルの声に深く耳を傾ける者にとっては、聖典の如きフィルムとなるだろう。
伊澤彩織(スタントパフォーマー、俳優)
衝撃作。大胆不敵で、詩的で、完全なる自由へ連れて行ってくれる映画。こういうアクション映画には滅多に出会えない。何度も見たくなるループの仕掛けと、圧倒的なカースタントの技術、善とも悪とも言えない複雑な人間模様、全てに心を奪われた。子供の時に感じていた映画への純粋な没入感と晴れやかな気持ちを思い出させてくれました。

鬼塚大輔(映画評論家)
伝説のスタント・ドライバー、ケイリー・ロフティンの神がかったテクニックが炸裂する98 分間の疾走。'消失点'へと爆走するダッジ・チャレンジャーは誰にも止めることはできない。誰にも。テレビモニターやPC の画面で、あなたはコワルスキーの走りを目撃することができる。だが、劇場のスクリーンでは、あなたも共に'走る'のだ。
川田寿夫(バイヤー)
71年の日本盤LP の帯には"「イージーライダー」をしのぐ人気!このロックの渦!"と書かれていた。同映画音楽はジミー・ボーウェンのプロデュースによるすぐれもの。映画の主題歌を歌ったキム&デイヴのキムは81年の「ベティ・デイビスの瞳」が全米で大ヒットを放ったキム・カーンズ。プライマル・スクリームの97年のアルバム「バニシング・ポイント」はこの映画を愛するメンバーが同映画をコンセプトにして制作した名作。
佐向大(脚本家・監督)
なにごとかと集まった見物人たちも、ドライバーをとっつかまえようとする警察官たちも、盲目なはずのDJ まで、呆然と一点を見つめている。彼らの視線は恐ろしいほどの速度で大地を切り裂くドライバー=コワルスキーのそれと重なる。いったい何を見てるのか?アメリカが失った純粋さか。スピードがもたらす自由な魂か。いやいや、そんなものは、はじめからない。この映画が素晴らしいのは、その視線の先に何もないことだ。我々は50年経ってもあの場所で、来るはずのないものが訪れることを信じて、呆けた顔でずっと一点を見つめている。

冨塚亮平(アメリカ文学/文化研究者)
孤独なスピード狂コワルスキーを乗せた白いダッジ・チャレンジャーが、ラジオDJスーパー・ソウルの黒い魂と共鳴しつつ、広大な荒野を西へ西へと爆走する。全てから逃げ去ろうと走り続けるもやがて消失点へと至る、開拓者を思わせる彼の旅路は、狂乱の60年代を経て袋小路に入り込む、70年代アメリカが歩んだ道そのものだ。
樋口泰人 (VOICE OF GHOST)
リマスターされたのか、かつてよりパワフルに冒頭から大地を揺らすご機嫌ソウルミュージック。そのリズムに乗り白いダッジ・チャージャーが荒野を走る。黒いエネルギーで加速する白い暴走。もちろん暴走はノーフューチャーである。そんな70年代に幻視された西欧白人社会の終末/週末の映像は、まさに幻視された未来である今ここを反転させて半世紀前へと引き戻し、われわれの現在地を示すだろう。
渡部幻(映画批評/編集者)
リチャード・C・サラフィアン監督は「見えなくても存在しているもの」をめぐる映画だと語る。The J.B. Pickers の“Freedom of Expression”が流れ出し、車体とドライバーの意識が一体となって、メビウスの輪がぐるりとまわり中心点で交差した瞬間、一気呵成に消失する、その映画的なカタルシス! 1971 年、ニューシネマはここにその思想性と超現実主義、スピード、アクションとロックンロールの理想的な融合を果たした。そして21 世紀――主人公の魂は今もアメリカ荒野を疾走し続けていた。

3/3(金)よりシネマート新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー