ペドロ・アルモドバル監督最新作『パラレル・マザーズ』の公開に先立ち、10月25日(火)に本作のトークショー付き試写会イベントをインスティトゥト・セルバンテス東京にて実施。インスティトゥト・セルバンテス東京の文化部長の挨拶から本編上映が始まり、上映後には、アルモドバル監督に造詣が深いコラムニストの山崎まどかと、NeoL 編集長の桑原亮子が登壇し、物語の核となるテーマを語り尽くすトークショーを実施した。



そんなアルモドバル作品について「お母さんの神話性、女性とはこうあるべきといったものがないから安心して観てられる」と笑う桑原。山崎も「シングルマザーの話となると、母性神話みたいなものを期待するところもあるかもしれないですけど、それは一切ないですし、むしろそれを疑問視しているところもある。子どもを産めば母親だというところは一切ない。だいたいがアルモドバル作品に出てくる母親は勝手で、行方知れずになったり、ヒドいこともする。それでも娘にとっては母である、という複雑な関係性は変わらない。本作でもミレナ・スミット演じるアナの母親のテレサは、娘を捨てていく母親ですが、でも娘を捨てていくから母性本能がないとか、面倒を見ないから母親じゃないということはなく、それも母親じゃないか、ということを提示している。それも面白いし、ひとつの型に押し込めない。そういう自由なところがあると思いますね」とコメント。桑原も「ジャニスもフォトグラファーの仕事をしていて、ベビーシッターもいる。日常生活の中で女性が自立する姿を見ると安心します」と付け加えた。

本作の主人公ジャニスは、スペイン内戦で犠牲になった曾祖父(そうそふ)の骨を掘り起こし、愛するモノの尊厳を守る場所に埋葬するということに強い思いを抱くキャラクターとなっている。その点について「アルモドバル作品はメロドラマの形式ができあがっている。そこに政治的なことが出てくるのは意外ですけど、でも実はアルモドバルは内戦に触れるところが元々あって、フランコ政権以降の自由な雰囲気でわれわれは育ったが、それは勝ち取ったものだと。それは老境における心境の変化もあると思いますが、それ以上に彼が今の世界の情勢を無視できないということもあると思う。彼は独裁政権の傷を負った国に生きたわけですよね。この映画のラストシーンには、ロシアのウクライナ侵攻で起きたことを思わせるものがあり、グッとくるものがありました。この『パラレル・マザーズ』は(本国公開から)1年遅れて公開となりましたが、今観ることに意味があると思う。家族の物語として、他人事ではないのだと。個人の歴史と国の歴史はイコールであると感じさせる作りになっているなと思いますね」と語る山崎。「ジャニスが『若い世代でも自分の国のことを知るのは大事でしょ』というセリフがありましたけど、今までそういうストレートなセリフはなかった。今まではクィアの視点など、直接的に描かなくても、訴えかけるものがありましたが、ここでは(ストレートに語るということで)新境地のようなものを感じました」と力強く語り、盛況のうちにイベントは終了した。
11月3日(木・祝) ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ、新宿シネマカリテ 他公開