ノマド生活を送る少数民族の撮影に世界初成功した、映像人類学のドキュメンタリー映画『森のムラブリ インドシナ最後の狩猟民』より、特報、場面写真と、本作の出演・現地コーディネーター・字幕翻訳の言語学者である伊藤雄馬のコメントが届いた。

バナナの葉と竹で寝屋をつくって野営し、平地民から姿を見られずに森のなかを遊動するムラブリ族の生活。タイ人は彼らを「黄色い葉の精霊」と呼んだ。本作は、6ヶ国語を自由に話し、文字のないムラブリ語の語彙を収集する、言語学者・伊藤雄馬とともに足かけ2年、ムラブリ族を追ったドキュメンタリー。伊藤はラオスで狩猟採集を続けるグループへの接触を試み、カメラは世界で初めて、ムラブリ族の謎めいた生活を撮影することに成功。ムラブリ族は言語学的に3種に分けられることが判明し、お互い伝聞でしか聞いたことのないタイの別のムラブリ族同士が初めて会う機会を創出する。また、今は村に住んでいるタイのムラブリ族の1人に、以前の森の生活を再現してもらうなど、消滅の危機にある貴重な姿をカメラに収めた。

<伊藤雄馬コメント>
「『黄色い葉の精霊』を研究してるって、それ、本当にいるのかい?」
現代でも伝説的な存在である黄色い葉の精霊、ムラブリ。
その名前の由来である森での遊動生活については、100余年の間、民族誌のみの語るところだったが、今後はこの映画が語り部の役を担うだろう。
確認されている全ての方言を網羅する本映像は、「ムラブリ語の響きが美しいから」という非学術的な動機で研究を始めた私をして、学術的価値の高さを指摘せざるを得ない。
集団間の邂逅も本映像の主格に相当する。
生まれて初めて出会う彼ら彼女らが、お互いの言葉の近さや遠さに驚きながら、接点を探る相互行為は、しかし辿々しいものでは決してなかった。
どんな集団でも、分断があり、統合がある。この邂逅は、過去にもあっただろうし、未来にもあるだろうことに気づいた。
その点において、分断と統合の交差するあの場面は、ムラブリという民族の普遍を見出す格好の資料であろう。
【出演・現地コーディネーター・字幕翻訳】
伊藤雄馬(Yuma Ito)
1986年生まれ。島根県出身。言語学者。京都大学大学院文学研究科研究指導認定退学後、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所にて日本学術振興会特別研究員(PD)。2018年より、富山国際大学専任講師。学部生時代から、タイ・ラオスを中心に現地に入り込み、言語文化を調査研究している。
■『森のムラブリ インドシナ最後の狩猟民』特報


3月19日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開