“嘘と本当の境界線がなくなる瞬間の準備をしている” 『ドライブ・マイ・カー』大ヒット記念トークイベントに濱口竜介監督登壇!

(C)2021 『ドライブ・マイ・カー』製作委員会
9月13日(月)

主演に西島秀俊を迎え、村上春樹の短編を映画化し、第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で日本映画史上初となる脚本賞ほか全4冠に輝いた濱口竜介監督最新作『ドライブ・マイ・カー』の大ヒットを記念し、9月11日(土)濱口竜介監督登壇のトークイベントが実施された。

上映を終えたばかりの満席の会場から拍手で迎えられた濱口監督は、「週末にこの映画を選んでいただきありがとうございます。」と、感無量の面持ちで挨拶。その後、進行を務める門間雄介氏(ライター・編集者)が、SNSに事前に寄せられた一般客からの質問を投げかける形でトークがスタートした。

村上春樹作品を読んで自分の中に蓄積されたものが反映されている
村上春樹作品を映画化するにあたり、原作「ドライブ・マイ・カー」が収録されている短編小説集「女のいない男たち」を読みこんだという監督。そのほかにも参考にした作品があるかを問われ、「同短編集に入っている『シェエラザード』や『木野』といった話も参考にしました。他にも、村上春樹さんの長編は全部読んでいるので、そのときに受け取ったもの、自分の中に蓄積されていたものは反映されていると思います。『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』は村上春樹さんの小説の見取り図というかエッセンスの詰まった作品だと思っていて、今回もすごく意識をしていました。結果、家福がいろんな人に会って最終的に辿り着く場所がある、という巡礼にも似た形ができあがったのかなと。その他にも『翻訳夜話』、『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』などヒントになりそうなものは読むようにしていますし、とても参考になりました。原作ファンも数多くいらっしゃる方ですので、村上春樹作品の世界観を踏襲したいという思いがありました。」と原作への思いを語った。


また、原作があるものを映画化する際に、変更や脚色はどの程度まで許されると考えるかという問いに対しては、「原作から受け取ったものや原作の核だと思っている部分には絶対に沿わなくちゃいけないし、反対にその核の部分に沿ってであれば変えて良いと思っています。ただ、大前提として原作者の許諾の範囲で。今回の場合は、映画化のお願いをするときに方向性を提示した上で、ここから変えるかもしれない、ということも含めて許諾を頂いていました。その分、信頼をしていただいたからには踏み外してはいけないと思っていました」と語った。

カメラは、映っている人の歴史も映し出して、それを観客に伝えてしまう
本作の主人公である家福(西島秀俊)に絡めて、舞台の演出家と映画監督との違いについて、更には自身の舞台演出への興味を尋ねられた濱口監督は「舞台演出はできないと思います。カメラに映った時に良いものであるかどうか、という判断基準があるので、カメラがない場合に演出の軸を保つことができないだろうと思っています。」ときっぱり。

映画監督と演出家の違いについては「舞台演出の方が、映画監督よりも、俳優の身体に対する解像度が高いと感じます。ステージで演出をする際にはそういうものが必要なのだろうなと。」と、本作の撮影にあたって、舞台の現場にも見学へ行き感じたことを語った。門間氏から「濱口作品は舞台や劇の要素が登場することが多いですよね。興味はあるのでは?」と問われると「僕の作品で舞台を取り扱うことが多いのは、カメラは、映っている人の歴史も映し出して、それを観客に伝えてしまうと感じるから。俳優は演技をすることが仕事なので、舞台が題材であれば普段使っている身体をそのまま撮って良い、という僕自身の一種の不安解消に繋がっています」と、カメラを通じて何ができるか、ということへの拘りを見せた。

嘘と本当の境界線がなくなる瞬間の準備をしている
事前に寄せられた「画面にうつしだされるものがどこまでも透明で、彼らの語る言葉が『ほんとうのこと』としてまっすぐに届いてきたように感じました。監督にとって、映画における嘘と本当の違いはなんでしょうか。」という質問へ移ると監督は、「それがわかりたくて演技を取り扱っている部分はあります。その役として過ごした時間が役者さん自身の記憶になり、役者さん自身の人間性と、役の人間性が一致して、間違いなくその人自身であるように見える瞬間があるのです。それぞれの登場人物に合わせたリハーサルを前もってしておくことで、撮影が始まった初日からそれが起こりうる。そういった嘘と本当の境界線がなくなる瞬間の準備をしています。結果的に、現場で僕自身もそういった瞬間を目にして驚くことが多く、役者さんたちが本当に素晴らしかったと感じています。」ともらった感想を噛み締めながら答えた。

門間氏から「本作の劇中でも行われる“台詞のニュアンスを抜く練習”というのはそういった準備の一つとして、監督の現場でも行っているものなんですよね」と問われると、「実際よりも簡略化して描いてはいますが、その場に応じて台詞を言うための準備として、一度感情的なニュアンスを抜いていただく作業はしています。ただ、本番でなにか感情的なものが出てくることは良しとしていて。そういう偶然を捕まえたいという思いで行っています」と準備に懸ける思いを語った。

最後に門間氏が「何度観ても発見がある作品。原作を読んで、映画を観てという繰り返しの作業をしてぜひ楽しんでください。」と観客へおすすめの楽しみ方を伝えると、監督も「言っていただいた通り、僕も原作を読んで、書いて、という往復をやっていたので、そういった楽しみ方をすることで原作に対しても、映画に対しても見え方が変わってくることがあるのではないかと思います。それだけの厚みのある物語を村上春樹さんから与えて頂いたと思っています。味わっていただけたらと思います。」と締めくくった。

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