『カメラを止めるな!』の主人公の妻役で大ブレイクしたしゅはまはるみ、映画『イソップの思うツボ』などに出演の藤田健彦、1980年代より数々の舞台演出を手がける長谷川朋史の3人が結成した自主映画制作ユニット「ルネシネマ」の第2弾作品『あらののはて』の公開に先駆け、監督・脚本の長谷川朋史オフィシャルインタビューが解禁となった。

Q.本作の制作の理由をお教えください。
昔から演劇をやっている仲間と映画を作ろうという企画が3年前にあって、そこから始めたルネシネマというグループで映画の自主製作を始めました。本作はその2作目で、私が監督をする作品として企画しました。
Q.『カメラを止めるな!』のしゅはまはるみさんと藤田建彦さんとルネシネマを作ったきっかけを教えてください。お二人は出演以外に本作ではどのようなことをされたのでしょうか?
二人は、昔からお芝居を一緒にやっていた仲間です。しゅはまはるみも藤田建彦もキャリアは長いんですが、所属する劇団がなく、フリーランスとして色んな舞台に立っているので、ホームグラウンドがないんです。仲間と一緒に作品を作ったり、「これが私の代表作だ」という場所・作品を作りたい、ということで、「ずっと愛される作品がもし作れるのであれば、それが自分の代表作になる」という思惑があって始まりました。
本作では二人が重要な役で出るという以外は約束はしていなかったんですが、藤田は制作として車の運転やらお弁当の手配やらをしてくれ、しゅはまもいろんなところに連絡を取るなどお手伝いをしてくれました。
Q.主人公の風子が、「高2の時にクラスメートの大谷荒野君に頼まれて人物モデルをした時に感じて以来絶頂を感じたことがない」という設定を思いついたきっかけはありますか?
教室を舞台にしようというのが元々あり、教室で起こる面白いシチュエーションはないかなと思っていました。実際そんなことがあるかもしれないというシチュエーションで考えたのが、モデルとデッサンをする二人の関係です。どういう風なフックがあれば、お客さんが興味を持ってくれるかなと考えました。

Q.長回しを多用している理由をお教えください。
ひとえに僕が舞台演出家だからだと思います。一幕一話ものの舞台を多くやっていたのですが、お客さんの視点で舞台を見るのはすごく不自由なんです。そこしか見るところがないので。「そこしか見ることがない」というのは映画ではデメリットとして捉えがちなのですが、そうではなくて、FIXのショットで「そこしか見ることがない」というメリットもあることを知ってもらいたかったので、実験も踏まえて、長回しを多用しました。
Q.男子が、女子が噛んだガムをもらって食べ、それを見た他の女子が嫉妬して取っ組み合いの喧嘩になるというのが面白かったですが、どこから着想を得たのでしょうか?
自主映画で自分で脚本を書く際に、どこまで性的なことを描くとか、表現としてそれがどういう風に捉えられるかということに興味がありました。ある人にとってはショックに感じるだろうし、ある人にとってはコメディに感じるでしょうし、見る人によって捉え方は違うと思うので、自分の中では、「ショッキングに映るコメディ要素があるシチュエーション」として面白さを感じました。

Q. 8年後、風子があらんに会いに行くと、あらんは他の女性と同棲していて、風子はまた嫉妬されますが、あらんが女性を夢中にさせる魅力はどこにあると思われますか?
何を考えているのかわからないが故に、他人があらんとのコミュニケーションを思い煩う必要がない、一緒にいて楽、みたいなところが彼の魅力なのかなあ。あるいは、飼い主の思い通りにならないネコみたいな、ヒトとはすこし違った不思議な魅力があるのかもしれません。
Q.風子役の舞木ひと美さん、荒野役の髙橋雄祐さん、マリア役の眞嶋優さん、前田役の成瀬美希さんそれぞれの演技で、演出していて驚いたところなどはありますか?
舞木さん、髙橋さん、成瀬さんに関してびっくりしたのは、撮影してみたら本当に高校生に見えたこと。時間を超越してしまう演技力が素晴らしいですよね。眞嶋さんは、高校時代から8年後のシーンに登場するキャラだったので、途中からの入り方とかリズムが難しかったと思うけど、出演のないシーンの撮影でも他のキャストのことをよく見ていて、そこで高校組の空気感をつかんでいたのではないかと思います。

Q.門真国際映画祭2020で最優秀作品賞・優秀助演男優賞・優秀助演女優賞を受賞し、うえだ城下町映画祭で審査員賞を受賞した際の感想をお教えください。
監督デビュー作の『かぞくあわせ』は、非のない映画だと思っていますが、自分が映画監督・作家としてやっていく上で自分がどういう監督かを判断してもらう作品ではなかったのかなと思います。商業監督して活動しているわけではないので、作家として自分が監督をする上で「これが自分ですよ」とわかってもらえるような作品を作るべきだと藤田としゅはまからも言われ、そこを色濃く盛って作った映画です。それが映画祭で評価されると、自分の本心を探られたような感じで、むず痒いというか、恥ずかしいような気持ちです。
Q. 読者の方にメッセージをお願いします。
人それぞれ、自分の高校時代を投影したり、過去の苦かったり甘かったりする思い出がフラッシュバックしたり、この映画をきっかけに記憶の蓋が開く人もいるかもしれません。何かしら、揺さぶられてくれると嬉しいですね。また、若い4人のお芝居にぜひ注目してほしいと思います。
■『あらののはて』予告編
8月21日(土)~9月10日(金)池袋シネマ・ロサほか全国順次公開