パラノイア

高木家の主婦･明子は、どことなく不安な気分で春を迎えていた。ひとり息子の真一は全寮制の高校に入学が決まり、家を出た。舅の和雄は最近、軽く耄碌してきた様子。夫の雄一は、子会社に出向になって以来、いつもイライラしていて話を聞いてくれない。 家の中の空気が、どこかバランスを失っている。ある日、近所に出かけた和雄が道に迷い、明子の友人の主婦･ゆかりに保護される。和雄の様子を案じる明子は雄一に相談するが、心配ないと一蹴される。 次の日、和雄は、大事にしていた亡き妻･美智子の形見の指輪が仏壇から消えているのをみつける。 パニックになった和雄は、それを機会に奇妙な行動を始める。 その出来事をきっかけに、高木家の見えない歯車がどんどん狂っていく。 職場の軋轢で意味不明な行動を繰り返し凶暴性を帯びていく雄一。休みに帰省した真一さえも人が変わったように反抗的になっている。家族という逃げられない柵の中で孤立感を募らせ、追い詰められていく明子。そして、表面張力で限界まで盛り上がった水面のような高木家のバランスが、一気に崩れる瞬間がやって来る…。